「超能力者の日常と憂鬱」本文サンプル

 


 古泉が微妙に俺から目を逸らしながら説明してくれたあれこれ、アンド俺の言い分をまとめると、どうやら、性別が反転したのは古泉ではなく俺のほうらしい。そして、俺にはまったく自分が男であったという認識はない。男勝りどころか言動その他諸々が男そのものだってのは自他共に認めてたが、それとこれとは別問題だ。
 ハルヒのトンデモ能力に関しての認識は共通していたので、事態の把握その他は大変スムーズだった。が、さすがに変化の対象となった俺自身がその変化を認識していない、というのはどうかと思う。以前も一度そういうことがあったが、あの時は何千回もの繰り返しがあったおかげで教えられてすぐに納得することが出来た。違和感もあったしな。
 しかし今回のような突発的な事態ではこうして教えられても違和感など微塵もなく、やっぱり俺ではなく古泉のほうが記憶を挿げ替えられているんじゃないかとまで疑えて来る。
「……困ったものですね」
「俺は別に困らんぞ。元々女なんだし」
 俺からすれば、変わったのは古泉のほうだからな。ベッドの上に胡坐をかいて、目の前で困惑気味に視線を彷徨わせている古泉を観察した。
 いやしかし、俺の知ってる古泉から雰囲気はそのままで見事に男になってやがる。  俺の知ってる古泉も雑誌の読者モデルにでもなったらさぞ人気が出るだろうと思われる美少女だったが、(俺?聞くな)目の前の古泉も街を歩いてたらちょっとしたタレント事務所のスカウトくらいはやって来そうだ。
 しげしげと穴が開きそうなほど眺めていると、古泉は、
「……あの、そんなにまじまじと見ないでください」
 なんて言いやがった。頼みごとならもっと伝わりやすいようにはっきり言ってほしいもんだが、古泉(男)はもじもじしながら下を向いてやがる。
「あのなあ、お前、男だろうが。もっと堂々としてろ、こう、胸を張って!」
 言いながら俺がばん、とない胸を反らしてやると、古泉の顔が一瞬でユデダコのように真っ赤になった。
「……なんだよ」
「あ、あ、あなた……!」
 あわあわと口を開閉させながら、古泉は俺を指差す。
 なんかおかしなところでもあったか?と自らの姿を改めるが、特におかしなところはない。上は長めのTシャツ一枚とはいえちゃんと着ているし、パンツだって履いてる。
 そう主張すると、古泉は「勘弁してください」とうな垂れた。
「……あなたにとって、僕は仲の良い同性の友人であるという感覚が抜けないのでしょうが、僕にとって今のあなたは異性でしかありません。ですので……あの、そういった格好で胡坐をかかれたり、下着を着けていないのに胸を反らされたりしてしまうと、どうしても……その……すみません」
 その先は言いづらいらしく、古泉は足を組みなおし口をつぐんだ。
 俺もさすがになんとなく奴の言わんとした所を察して、組みなおした足の辺りにちらりと一瞬目を走らせ、俺の想像が正しいらしいことを確認した。
 まあ、俺だって思春期真っ只中だし。興味がないといったら、そりゃ嘘だ。
 

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