こっそりと寝室に忍び込んだときから、すでに掛け布団は脇へ追いやられていて
 わたしは思わず笑みを零した。
 寝巻きの帯はもうその役目をほとんど果たしてなくて、下穿きも丸見え。
(子供みたいね、銀さん)

 誰にも見せない顔を盗み見ている罪悪感。
 でも、ただその顔が見たくてここへ来た。それだけ。
 起きて顔を合わせているときには、絶対に見ることのできない顔。
 わたしには見せてくれない顔。
 隣に誰かいたらきっと立ち直れない、と思ってたけど、そんなこともなくて。
 わたしはただただ、彼の寝顔を見つめていた。

 そして、見つめているうちに、
 どうしても、下穿きに目が行ってしまう自分に気付いて。
 そして、どうしても、モヤモヤと湧き上がってくるものを抑え切れなくなった。

 物音を立てないように彼の傍らにしゃがみこむと、爪先だけで帯を解く。
(そーっと、そーっと)
 両脇に帯を垂らし、すでに寝乱れた寝巻きも同じように両脇へ寄せた。

 下穿きだけの裸体。こく、と喉が鳴る。
 その身体に触れたい。でも、触れたらきっとこの時間は終わってしまう。
(…だったら、触らなければいいのよね)
 普通だったら、とてもできない。でもわたしなら、できる。
(メス豚モード、オン)
 小さく口の中でつぶやいて、ゆっくりと、彼の腰を跨ぐようにしゃがみこんだ。
 その身体に触れないように、腿の脇に手をつく。

 下穿き越しに、ふっと息を吹きかける。
 少しだけそこが震えた気がして、身体の心に甘い電気が走る。
 もっともっと、【彼】が反応するところが見たい。
そう考えるだけで、ぞくぞくした。

 だけど、これ以上触ろうとするのはさすがに無理があって。
 私は数秒の逡巡ののち、胸元から小さな薬瓶を取り出した。
(ごめんなさい、銀さん)
 ぎゅっと目を瞑って俯いた。

 …と、肩からざっと滑り落ちた髪が、彼の脇腹を擽る。
 あっと思ったときにはもう遅かった。
 むずかるような動きの後、地の底より低い声がきこえる。
「…何してんだ、オイ」
「銀さん」
「睡眠薬で眠らせて逆レイプか?ホントお前何考えて生きてんのか脳ミソん中見てみてー」
 眠りを妨げられたからか、機嫌最悪の彼は私に詰め寄る。
「酷いわね、私がそんなことするような女に見える?」
「見える。つーか手に持ってるじゃねーか薬」
「これは…ちが、違うわよ?その…あわよくば睡眠薬で眠らせて触ったり舐めたり扱いたりしようと思っただけだもの!」
「それが逆レイプだっつんだよお前」
「あ」
「逆レイプってなんか屈辱じゃないかよお前、銀さん的に嬉しくもなんともねえよ」
 言葉が先か手が先か、あっという間に私の下肢は丸裸にされていた。
 銀さんに、脱がされて、見られている。
「っ、あ」
 泣きたくなるほどの甘い刺激。頭が熱い。ぐらぐらする。
 何がどうなっているのか、理解できない。
「どうせソノ気だったんだろ、お前」

 ぼやけた頭の隅にようやく届いたぐちゅ、という湿った音で、ようやく何をされているかに気付いた。
 気付いた瞬間、身体の奥が蕩けてどろりと流れて落ちていくのがわかった。

 ずっと触れたくて、触れられたくて、切なくて仕方なかった。

「お前すげーな、想像だけでこんなに濡らしたんか」
「ち、が…あ」
「ちがくねーだろ、ホレ」
 かり、と歯を立てられて。
「ひぁああぁぁあっ」
「コレが欲しかったんだろーが、舐めろよちゃんと」
 そして、待ち焦がれた彼自身を半ば無理やりに含まされて。

 たったそれだけで。本当にあっけなく、私は達した。

 



 

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