安眠のクスリ
御剣は、うちに来ると寝てばかりいる。 夕食を外でとってぼくの家に来てくれて…それはいいんだけど、30分も経たないうちにひとのベッドを占領して寝始めるっていうのは、一体どういう了見だろう。 そのベッドは眠るためのものだけじゃないんだぞーと言いたいけれど、ほんとにキモチよさそうに寝てるから、いつしかまあいいかって思うようになった。
まつげの一本さえも動かさずに昏々と眠り続ける姿にはじめは驚いたものだったけれど、最近はだんだん慣れてきた。 そっと枕元に頭を寄せて、寝顔を観察する。 寝てる間ですら眉間に寄せられている皺を伸ばすように指先で撫でると、ころりと寝返りを打って顔を背けてしまった。 背中を丸めて、布団を抱き込んだ手足をちぢこめて、まるで胎児みたいに眠る御剣。
そういえば、寝相で性格判断が出来るって話があったっけ。 確か、御剣みたいに丸まって寝るのは…
診断結果を思い出して、胸が締め付けられる。 そして、今考えたことをきれいさっぱり文字通り水に流そうと、眠り続ける御剣を置いてぼくは風呂場に向かった。
手早くシャワーを浴びて戻ってきて、ベッドを見やる。 御剣はやっぱり丸まって寝息を立てていた。 さっきと違うのは、ベッドの隅っこで半分落っこちそうになりながら眠っていること。 布団を抱きこみすぎたせいで、背中も丸見えになっている。 これじゃ、風邪引いちゃうよ。 直してやろうと布団の片隅を引っ張ると、御剣が唸り声を上げた。そしてそのまま、ゆっくりとまぶたが上がる。
やばい、起こしちゃった。
「…なんだ、きみも寝るのか」 少しふにゃふにゃとした声。いつも以上に開ききっていない眼。 「え…、と」 「それならこっちにきたまえ」 言うが早いかぼくの体は御剣の腕で絡め取られて、そのままベッドに倒された。 それだけ言うとものすごく色っぽいシチュエーションみたいだし、実際ちょっとぼくもソノ気になっちゃったりしたけれど、しっかりぼくを抱きこんだまま聞こえてきたのは寝息だったから、ぼくも諦めて目を閉じて眠りに付くことにした。
よく言われるみたいに、そもそも神経質な人は枕がかわると眠れない。 それでもぼくの部屋でこうして無防備に寝てくれるってことは、御剣がぼくに心を許してくれてる証明だったりして。 って、そんな考え方はご都合主義過ぎるかな。
なんてことを、ぼくはまどろみのなかで考えていた。
翌朝。 「うわ、か…からだ痛い…やっぱシングル二人って狭いんだなぁ…」 「…同感だ…ところで成歩堂」 「なに?」
「何故私たちはこのような狭いところで一緒に寝ていたのだろうか」 「え」 覚えてないのか。っていうか、無意識でアレやってたのか…?
起きてもやっぱり眉を寄せてる御剣に昨夜の出来事を逐一話してあげたら、真っ赤になってますます眉間のシワを深くして。
ぼくといるとひとりでいるよりもよく眠れるのだと、そんな殺し文句を呟いた。
追記
ちなみに。 胎児型の寝相の診断結果は 『自分自身を解放できず守りに入り、特定の人間関係に依存したがります。また、生活を楽しんだり、困難にもあえてチャレンジしようとする気持ちを持てず、心が閉鎖的になっています』 というものみたいです。(参考:All
About)
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