ゆっくりと。

 

「…おいで」
 寝転んでわらう先生の瞳がまるで三日月みたいに細められる。
 それはわたしのとても好きな表情で、見てしまった瞬間逆らえなくなる。
 いつだってそう。

 先生の上にゆっくりと覆いかぶさって、唇を合わせる。
 いつまでたっても慣れない姿勢。でも、これがはじまりの合図。
 恥ずかしいから嫌だと何度訴えても聞く耳持たずのその態度に
 ため息をついて諦めたのはいつのことだったか。もうそれからずっとこうだ。
 何度理由を問いただしても、教えてはくれない。

 待ち焦がれていたと言わんばかりに両手がわたしのからだを溶かしていく。
 唇はずっと触れ合ったままだ。
 少し荒れた指先がブラウスを潜り、肌を滑ってゆく。
 確かめられるように触れられるのは嫌いじゃない、でももどかしい。
 …でも、自分からは言えない。
 ゆっくりとした愛撫に、興奮よりも先に愛されている実感を得る。
 もしかしたら、これはものすごく贅沢なことなのかもしれない。

 性急にことを進めるような相手じゃない。確かめるように触れ、愛してくれる。
 同世代の男の子じゃ、きっとこうはならない。
 どちらのペースに合わせるでもない、ふたりのペースで進む時間。
 それは、とてもしあわせな時間。

 そして、気づかないほどゆっくりと行為は加速する。
 わたしのからだをくまなく調べて何がわたしの望みかを言わずとも察して、
 そして、わたしをどこか高みへ連れて行ってしまう。
 吐く息があつい。からだがあつい。

 そして、それはわたしだけじゃない。


 汗だくのまま抱き合うじっとりとした感触。
 決して気持ちのいいものではないはずなのに、なぜか悪くないと思える。

 きっと、お互いが心ごと通わせることが出来たから。

「や…何を笑ってるんですか?」
「なんでもありませんよ」

 きょとんとした顔がおかしくて、いとおしくて、
 首根っこに抱きついて頬ずりをした。


 

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