06 君を呼ぶ声
冬の寒さがどんどん和らいできてるのが、肌にあたる風で分かる。 もうすぐ、ぼくは3年生になる。
学内の掲示板に、ぼくはふたつの貼り紙を見つけた。 「コース選択について」と、「進路指導ガイダンスのお知らせ」。
入学したころのままのぼくなら、間違いなく演技コースを取った。そしてフツーの企業なんて目もくれずに、芝居の出来るところを探したんじゃないかと思う。
…でも。
「ちがうんだよなぁ…」
サークルで仲良くなった友達と、どのコースが一番ラクかという話題になった。 そいつはバイトの時間を少しでも増やすために、ラクなコースを取るって言った。ぼくも同じコースを取ることを決めた。 だけど、理由は全然違う。
学部を移ることも、頭にないわけじゃなかった。 まして法曹界は学閥がいまだに幅を利かせてるっていうし、ぼくみたいなはぐれ者に仕事が回ってくるかって言うと、ちょっと絶望しそうになる。
それでも、大きな組織に属するのは嫌だった。虎の衣を借る狐にはなりたくなかった。 ぼくはぼくという看板だけを背負って、堂々ときみに会いたい。
天才と呼ばれるきみに、心の中で呼びかける。
…御剣。 絶対、ぼくもそこまで上がっていくから。
待っていろ、なんて大きなことは言えない。だってこれはぼくが勝手に決めた道だ。
だけれど。 あんなに輝いた目で夢を語った少年は、一体どこへ消えてしまったのか。 一体この十数年の間に、きみの身に何があったっていうのか。
ぼくはそれを、どうしたって聞かなくちゃ気がすまないんだ。
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