13 終わりなき一日
まるで死体のように体をすっぽりとシートへ沈め、たったひとつ点いている常夜灯の下で前方のモニタを見つめた。 到着まで、あと10時間。何度見返しても、決して望むスピードでは進まない。
私は常夜灯を消して、どうせ眠れやしないとわかっていながら瞳を閉じる。 あっという間に、暗闇に包み込まれた。
かつて、私は闇の中にいた。 その闇から私を連れ出したのは、他でもない成歩堂だった。
思えばあの事件で父を喪い狩魔に縋った私は、 ひよこが初めて見たものを親と思い込む、そんな刷り込み現象を起こしていたのかも知れない。 そしてそれは、今回も例外ではないのではないかと少しだけ疑っていた。 矢張からの電話を受ける、その瞬間まで。
しかし単なる刷り込みや思い込みでは、とてもじゃないがこのような鉄の塊は飛ばせない。 自覚してなお自分ですら疑っていた想いを、このような形で完璧に思い知るとは露ほども考えていなかった。
どうせ思い知るのなら、もっと違った形が良かった。
「…頼むから」 掠れた声で呟く。 生きていてくれ。ただそれだけを、心の中で何度も希う。 大切な人を失うなんて体験は、もう二度としたくない。
暗闇が急に恐ろしくなり、目を開ける。それでもまだ私は暗闇の中にいた。 常夜灯を消してしまったからだと思い至るまでの一瞬の間、私は私の知る私ではなかった。
もう二度と、あの闇には戻りたくない。 既に私にとって、成歩堂のいない世界は闇の中にいるのと変わらない。 あの笑顔が、私の前から消える。 そう考えるだけで、とても正気ではいられなかった。
「…なるほ、どう…」
がたがたと肩が震えるのを、両手で押さえ込む。 歯の根が合わずに必死で噛み締めた唇からは、血の味がした。
暗闇の中、モニタの灯りを探す。 到着まで、あと9時間35分。
この悪夢が晴れるまで、私は今日という日を終えることができそうになかった。
12<< >>14
11<<
n*m >>15 |