14 ハートのカタチ


 葉桜院で真宵さまを探している間、雪の中にきらりと光るものを見つけてわたくしはそっとその光に近づきました。
 朝焼けのぴかぴかした雪の中で寒さにかじかむ手をそっと伸ばして、その「何か」に触れた瞬間それがいったいなんなのかがわかりました。

 手のひらをそっと開いて、わたくしは自分の直感が正しかったことを知りました。
 硬くまろやかな丸みを持ったそれを、まじまじとみつめます。

「…千尋さまの…勾玉…?」

 淡くうつくしい紫色は、間違いようがありません。
 でもどうしてこんなところに落ちているのかが、不思議といえば不思議でした。
 …もしかしたら、真宵さまが落とされたのかもしれない。
 そう思ったわたくしは、わずかに残る思念を読み取ろうとそっと勾玉を胸に押し当てました。

 しばらく集中して、ようやく感じることのできたモノは
 わたくしの期待したようなモノではありませんでした。

 それでも、頬をつうと伝うつめたいしずくを止めることはできません。

「…ちひろ…さ、ま…」

 まっしろな雪の上に、わたくしの涙がぽたぽた落ちていきます。

 わたくしの心に直接入り込んできたモノは、
 千尋さまが残した強すぎるほどの想いただひとつでした。

 

 

 すべてが終わった晩。
 わたくしは、勾玉のことを真宵さまに伝えようと思いました。
 ふたりきりになってそっと勾玉を差し出すと、真宵さまははっと息をのんで
 そして、泣き笑いみたいな顔でわたくしの頭を撫でてくれました。

「…はみちゃん、見つけてくれたんだね。ありがとう」
「やっぱりあの日、真宵さまが落とされたのですか」
「うん、多分、そうなんだと思う…だめだなぁ、大事にしてって言われてたのに。お姉ちゃんに」
「でも!真宵さまはあの日…」
「…うん、そうなんだけどね。それを言い訳にはしたくないんだ」
 真宵さまのさびしそうな横顔を、わたくしは黙って見つめました。

「…お姉ちゃんにね。頼まれてることがあるの」
 ぽつりとつぶやいた真宵さまが、懐から丁寧に折りたたまれた手紙を取り出してわたくしに見せてくださいました。

「真宵さま…これって…!」
「…うん、だからね。これ、なくしちゃうわけにはいかなかったんだ」
 ようやく渡せる日が来たんだなぁと、真宵さまが指先で勾玉の表面を撫でました。
 ふたりで、無言のまま何度も手紙を読み返します。

 そして、わたくしは手紙の一番下が不自然に破られたようになっていることに気づきました。
「…これ、続きがあったようですね」
「でもお姉ちゃん、きっと捨てちゃったんだろうな。どこにもなくて。あたしも探したんだけど…なんて書いてあったんだろうね。ちょっとお姉ちゃん呼んで聞いてみる?」

「…いいえ、わたくし…分かりました…」

 ふるふると首を振りました。胸がきゅうっと苦しいです。
 あの日感じたモノが、わたくしの胸の中に鮮明によみがえりました。
 わたくしはまたあのときのように泣きそうになって、ぐっとそれをこらえます。


「…愛した殿方に、持っていて欲しいんです。きっと」


 それを言葉にした瞬間。
 わたくしの心の中に、わたくしがするべきことがはっきりとカタチをなしていました。

 

 

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